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最高裁判所第一小法廷 昭和45年(ク)441号 決定

抗告人 バーバラ・バイ

相手方 羽田入国管理事務所主任審査官 外一名

訴訟代理人 斎藤健 外二名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

人身保護法による釈放の請求を排斥した決定に対しては、憲法違反を理由とするときに限り、最高裁判所に抗告の申立をすることができる(当裁判所昭和二三年(ク)第三〇号同年一〇月二九日第二小法廷決定・民集二巻一一号三九一頁、同昭和三九年(オ)第一一二九号同年一一月一九日第一小法廷判決・裁判集民事七六号二一七頁参照)。

本件抗告人は、その主張によると、アメリカ合衆国国籍を有する外国人であるが、沖縄から空路羽田空港に到着し本邦に入国しようとしたところ、入国審査官から旅券に上陸許可の証印を受けられず、口頭審理の結果、特別審理官からも出入国管理令七条一項二号に規定する上陸のための条件に適合しないとの認定を受けたため、右認定処分の取消を求める訴訟を提起するとともに、その効力の停止を求め、東京高等裁判所から右認定処分の効力を取消訴訟の判決確定に至るまで停止する旨の決定を得たのに、相手方らはなお抗告人に対し上陸ないし仮上陸の許可を与えず、上陸審査手続のための待機場所とされたエア・ターミナル・ホテルから一歩でも外出すれば不法上陸の理由で収容する旨通告し、入国を希望する抗告人をして右ホテル内に滞留を余儀なくさせているというのである。そして行動を制限された右状態が身体の違法な拘束であるとして人身保護法に基づき釈放を求めた抗告人の請求を棄却し救済を拒んだ原決定をもつて、憲法三四条に違反するというのが、本件抗告の理由とするところである。

しかし、国際慣習法上、外国人の入国の許否は当該国家の自由裁量によつて決定しうるものとされており、憲法は外国人の本邦への入国についてなんら規定していないのであつて、右国際慣習法に従うことが憲法の理念に反するものではなく、したがつて、出入国管理令が外国人の入国の公正な管理・規制を目的として、入国および上陸のための条件ならびにその審査手続を定め、右条件に適合しているものとして上陸許可の証印を受けないかぎり、原則として外国人の上陸を禁止していることの結果として、外国人が自由に本邦に上陸することをえない状態におかれているからといつて、憲法の保障する自由を制限するものということができないことは、当裁判所大法廷の判例の趣旨に徴して明らかである(昭和二九年(あ)第三五九四号同三二年六月一九日大法廷判決・刑事一一巻六号一六六三頁)。

抗告人は、前記のとおり、エア・ターミナル・ホテルから外出することができない状態におかれていることをもつて、身体の自由を制限されていることになるというが、抗告人が右ホテルに留まるかぎりいまだ本邦に上陸したものとはみなされないから、同人が右ホテルから本邦内に向け外出することの自由(国外に退去するためにホテルを離れることを制限されているものでないことは、抗告人も認めるところである。)とは、ひつきよう、上陸許可の証印を受けないままで本邦に上陸することの自由をいうことに帰する。出入国管理令の適用上、抗告人にかかる自由は認められておらず、そのことが憲法に違反するものでないことは、前述したとおりであり、裁判所により口頭審理認定処分の効力が停止された本件事実関係のもとにおいても、もとより別異に解すべき理由は存しない。してみれば、抗告人が本邦内に向けホテルから外出することができない状態におかれていることをもつて所論のように身体の自由の制限すなわち拘禁にあたるとは解しがたく、これが拘禁にあたることを前提とする憲法三四条違反の主張は、その前提を欠き、排斥を免れない。

よつて、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 藤林益三 長部謹吾 岩田誠 大隅健一郎)

抗告理由〈省略〉

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